【現場から警鐘】「海のクロマグロ」は世界に追跡できるか?投資家も注目する日本の漁業リスク

【現場から警鐘】「海のクロマグロ」は世界に追跡できるか?投資家も注目する日本の漁業リスク

なぜ今、「トレーサビリティ」が漁業経営のリスクになったのか?

 

小松啓作商会は、日本のマグロ漁業の最前線で、プロの要求に応える釣り針を150年に渡り作り続けてきました。長年の経験から言えるのは、今、水産の世界は「大転換期」を迎えているということです。

かつて、漁業の課題は「魚を獲りすぎないこと」だけでした。しかし今、国際社会では「どこで、誰が、どうやって獲ったのか」を証明できなければ、市場で受け入れられないという新たなルールが定着し始めています。これは単なる環境問題ではなく、企業の信用と財務健全性に関わる「リスク管理」の中心課題となりました。

 

漁業の闇:「違法マグロ」が国内に流れ込む経済的損失

 

この問題の根源にあるのが、IUU(違法・無報告・無規制)漁業です。これはルールを守らない漁業行為のことで、水産資源を奪うだけでなく、真面目な漁師さんたちの公正な競争を阻害します。

驚くべきことに、東京海洋大学の研究によれば、2015年時点で日本に輸入された天然水産物のうち、最大で36%が違法漁業によるものである可能性が指摘されています。その金額は、日本円にして約2000億円にも上る膨大な規模です。この状況を放置すれば、日本の水産資源管理は破綻し、国全体のコンプライアンス体制が国際的な信頼を失うことになります。

 

投資家が日本の漁業に迫る「人権と信頼性」

 

国際的な投資家たちは、企業を評価する際、環境(E)だけでなく、社会(S)、ガバナンス(G)の側面を重視するESG投資の枠組みで見ています。

透明性の低い水産物サプライチェーンは、非人道的な行為(海上での奴隷労働など)のリスクと密接に結びついています。これは深刻な「社会」(S)要素のリスクです。投資家は、追跡可能性(トレーサビリティ)の確保を怠る企業を「カントリーリスクが高い」と見なし、投資を引き揚げる判断を下す可能性があります。

英国のNGOも「東京で自動車に識別番号がなければ犯罪が起きるのと同じことが海上で起きている」と警鐘を鳴らしており、漁獲した「個体」や「漁船」に明確なユニークID管理を求めることが、世界の共通認識になりつつあります。

 

国際社会からの圧力 日本のマグロ漁業が直面する試用期間

 

日本の遠洋漁業、特にクロマグロ漁業は、国際的な地域漁業管理機関であるWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の厳しい監視下にあります。

2024年12月、WCPFCは日本の太平洋クロマグロの漁獲上限について、大型魚(30kg以上)の漁獲枠を大幅に増加させる決定を下しました。これは朗報に聞こえますが、実はこの決定は、国際社会が日本に対して「適切な資源管理と透明な流通を徹底すること」を条件として課した「試用期間」と解釈すべきです。

なぜなら、この決定の直前に、国内でTAC(漁獲可能量)報告義務に違反したクロマグロが流通する事案が発生し、日本の信頼性が揺らいでいたからです。国際的な懸念を払拭し、この増枠を将来にわたって維持するためには、日本は国内法を改正し、流通の「誠実さ」を世界に示す必要に迫られました。

 

2026年4月施行にされる 改正「水産流通適正化法」で何が変わる?

 

国際的な要求に応えるため、日本政府は「水産流通適正化法」を改正しました。この改正法は2026年4月1日に施行され、太平洋クロマグロの大型魚(30kg以上)が新たにトレーサビリティ義務の対象となります。

この法律が目指すのは、TACを超える魚が国内で不正に流通することを防ぎ、資源管理の信頼性を高めることです。これは、漁業者、流通事業者、そして小売・外食事業者まで、すべてのサプライチェーンのプレーヤーに「記録」と「情報伝達」の義務を課すものです。

 

義務の対象者と記録保存の「3日以内」の壁

 

特に現場の漁師さんや流通業者にとって、大きなプレッシャーとなるのが、報告・記録義務の厳格化です。

対象主体 主な義務行為 情報伝達(川下へ) 記録保存期間
採捕漁業者 (30kg以上) TAC報告(総量・本数)を陸揚げから原則3日以内に実施。 個体重量、採捕漁船名、陸揚げ日などを販売先へ伝達。 3年間
流通事業者 (解体前) 販売元からの情報受領、取引記録の保存。 販売先へ販売元から受けた情報を伝達。 3年間
小売・外食事業者 取引記録の保存(販売元からの情報受領)。 (ブロック・フィレ等に解体販売する場合、情報伝達義務なし) 3年間

(※流通事業者は、既存の届出対象魚種以外を取り扱う場合、届出が必要となります。)

この表で一目瞭然なのは、漁獲から「原則3日以内」というスピード感です。遠洋漁業や多忙な漁港現場で、紙の伝票や手書きの台帳に頼っていては、報告遅延や誤記による法令違反リスクが著しく高くなります。

 

日本の「トレース」を世界水準にするためのデジタル戦略

 

 

現場で記録が崩壊する「3日以内」の壁

 

日本の水産現場の課題は、法律がないことではなく、この法的義務を迅速かつ正確に実行するための「インフラ」と「習慣」が国際的な要求に追いついていない点にあります。

「3日以内」の迅速な報告を確実に行うには、アナログな記録管理から、漁獲時点でのデジタル記録(アプリやIoTデバイスの活用)への移行が避けられません。情報の出発点である「漁獲時」の記録精度が低いと、その後の流通チェーン全体でデータの信頼性が崩壊してしまうからです。

 

ブロックチェーンと「釣り針の製造番号」が鍵

 

トレーサビリティの国際的な信頼性(Trustworthiness)を確保するには、改ざんのリスクがない、透明性の高い情報共有システムが必要です。

IUU漁業撲滅を目指し、生産から消費までの情報を改ざん不可能に記録・共有する「Ocean to Tableプロジェクト」のような取り組みも始まっています。ブロックチェーン技術の導入は、記録の透明性と信頼性を飛躍的に向上させ、日本の水産物が国際市場で求められる最高水準の信頼性を証明する基盤となります。

そして、このデジタルな信頼性に、アナログな「専門性」を繋ぎとめるのが、「製造番号管理」の役割です。

 

釣り針に託されたトレーサビリティの責任

 

デジタル記録が優れていても、「どの魚が誰の記録に該当するか」という物理的な紐づけがなければ、トレーサビリティは機能しません。

ここで、私たち小松啓作商会が提供する専門的な漁具(釣り針)が重要な役割を果たします。釣り針の製造番号やロット情報を、漁獲データと関連付ける「メタデータ」としてデジタルシステムに記録する仕組みを導入することで、「どの技術(釣り針)が、どの漁船で、どの魚種の漁獲に使われたか」という、高度なトレーサビリティ情報を提供できます。

これは、漁業技術の専門性(Expertise)までもを証明する指標となり、漁業行為全体の透明性をさらに高めることにつながります。耐久性の高い高品質な漁具は、安定した漁獲を可能にし、結果的に漁獲データ(一次情報)の正確性を高め、法令遵守の土台を支える要素となるのです。

 

結論:釣り針に託された150年の責任と「誠実な海」の未来

 

トレーサビリティの強化は、新しいコストではなく、日本の水産物が国際市場で競争力を回復し、ブランド価値を創造するための戦略的な「投資」です。サプライチェーンの透明性確保は、違法漁業による安価な水産物との差別化を可能にし、「誠実さ」という付加価値を世界に明確に示すことになります。

株式会社小松啓作商会は、150年にわたりマグロや大型魚漁業の最前線を支えてきました。私たちの釣り針は、魚と漁師を繋ぐ、漁獲という行為の「一次情報」を生み出す最も重要な接点です。

私たちは、単なる道具の提供に留まらず、高品質な漁具の提供を通じて、現場の専門性を技術的に支え、その結果として水産流通の適正化、ひいては国際的なコンプライアンス達成に貢献していく決意です。

専門的な「モノづくり」を通じて、日本漁業の透明性と誠実さを世界に示す。それが、次の150年を見据えた私たちの使命です。

サステナブルな未来へ向かうマグロ漁業を支える、プロの要求に応える製品群は、弊社のECサイトにてご覧いただけます。

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