マグロはこれからも食べられるのか?資源回復と世界需要のあいだで起きていること

マグロはこれからも食べられるのか?資源回復と世界需要のあいだで起きていること

「マグロは将来、食べられなくなるのではないか」

そんな話を聞いたことがある人は少なくないかもしれません。
一方で近年は、「クロマグロが増えている」「定置網にクロマグロが大量に入る」といったニュースも見られるようになりました。

減っているのか。増えているのか。
獲ってはいけないのか。もっと獲ってよいのか。

マグロをめぐる話は、一見すると矛盾しているように見えます。

しかし、その背景には、単に「魚がいる・いない」だけでは語れない、資源管理、漁獲枠、漁法の違い、世界需要、そして漁業現場の難しさがあります。

今回は、マグロ資源の回復と、漁業現場で起きている課題、そして私たちがこれからもマグロを食べ続けるために必要なことを考えていきます。

マグロは本当に減っているのか

まず大切なのは、「マグロ」とひとことで言っても、種類も漁場も状況も異なるということです。

日本で高級魚として知られる本マグロは、正式にはクロマグロと呼ばれます。なかでも太平洋クロマグロは、かつて資源量の減少が大きな問題となり、国際的な管理の対象になってきました。

しかし近年、太平洋クロマグロについては資源回復が報告されています。水産庁資料では、WCPFCにおいて小型魚の漁獲量を10%、大型魚の漁獲量を50%増枠する保存管理措置が採択された経緯が示されています。これは、長年の厳しい数量管理によって資源回復が進んだことを背景にした動きです。

つまり、現在の太平洋クロマグロは、単純に「減っているから獲れない」という段階から、回復してきた資源を、どう守りながら利用するかという段階に入っているといえます。

それでも「獲れない」と言われる理由

資源が回復しているなら、なぜ漁師は自由に獲れないのでしょうか。

その理由が、漁獲枠です。

クロマグロは、国際的な取り決めや国内の管理制度によって、年間に獲ってよい量が決められています。これは、資源を再び減らさないために必要な仕組みです。

しかし、現場ではこの管理が簡単ではありません。
特に難しいのが、定置網のような漁法です。

定置網は、特定の魚だけを狙って釣り上げる漁法ではありません。海に設置した網に、ブリ、ヒラメ、シイラ、サバなど、さまざまな魚が入ります。その中に、クロマグロが一緒に入ることがあります。

農研機構の研究紹介では、クロマグロ小型魚の漁獲量が規制値に達すると、たとえ他の魚が獲れていたとしても、操業を停止せざるを得ない状況があると説明されています。

つまり、漁師がブリやヒラメを獲りたくても、網にクロマグロが入ることで漁を続けにくくなる場合があるのです。

これは、一般の消費者から見ると少し不思議に感じるかもしれません。
「高級魚のクロマグロが入ったなら、むしろ良いことではないか」と思う人もいるでしょう。

しかし、漁獲枠を超えるわけにはいきません。
資源管理のルールを守るためには、獲れた魚をそのまま水揚げできないこともあります。

ここに、現在のクロマグロ問題の難しさがあります。

「たくさんいるのに獲れない」という現場の矛盾

近年、地域によってはクロマグロが多く来遊し、定置網などにまとまって入ることがあります。

魚が増えること自体は、資源管理の成果ともいえます。
しかし、漁獲枠が限られている中で大量に入網すると、現場では別の問題が起きます。

漁獲枠を消化してしまえば、その後はクロマグロを水揚げしにくくなります。さらに、クロマグロが混じる可能性が高い漁場では、他の魚を狙う操業にも影響が出ます。

農林金融の資料でも、定置網へのクロマグロ大量入網の影響や、ひき縄釣り漁業、沿岸まぐろはえ縄漁業などでの放流、操業自粛・停止に触れられており、沿岸漁業者が経済的な痛みを背負いながら漁獲枠を守っていることが示されています。

これは、資源管理が間違っているという話ではありません。

むしろ、資源を守るためには必要な管理です。
ただし、魚が実際に回遊してくる海の現場では、机上の数字どおりにはいかないことが多くあります。

「資源を守ること」と「漁業者の暮らしを守ること」。
この二つをどう両立するかが、これからの大きな課題です。

なぜ小型魚の管理が重要なのか

クロマグロ管理で特に重視されてきたのが、小型魚です。

小型魚とは、まだ成長途中の若いクロマグロです。
若い魚を獲りすぎると、将来産卵する親魚が減り、資源回復が難しくなります。

そのため、小型魚の漁獲管理は非常に重要です。

一方で、小型魚は定置網に入りやすく、漁業現場では放流や選別の技術が求められます。農研機構の研究では、クロマグロ小型魚と他魚種を選別する技術や、網外へ逃避・放流させる技術が開発され、放流後の生残率にも触れられています。

ここから見えてくるのは、これからの漁業には「獲る技術」だけでなく、獲らないための技術、逃がすための技術、必要な魚を選び取る技術も求められているということです。

世界ではマグロ需要が続いている

では、マグロの需要はこれからどうなるのでしょうか。

日本では、寿司や刺身の文化の中で、マグロは特別な魚として扱われてきました。特にクロマグロは、本マグロとも呼ばれ、高級寿司店や年末年始の食卓、贈答品などでも存在感があります。

一方で、マグロ需要は日本だけのものではありません。
海外でも寿司や和食の人気は広がり、マグロは世界市場で取引される魚になっています。

そのため、マグロの未来を考えるには、日本国内の消費だけでなく、海外市場、外食需要、冷凍流通、加工品、缶詰需要なども含めて見る必要があります。

今後、世界的な水産物需要が続けば、マグロの価値はさらに高まる可能性があります。だからこそ、資源管理をしながら安定的に供給する仕組みが重要になります。

資源が回復したからこそ、管理が難しくなる

一見すると、資源が減っている時より、増えている時の方が管理は簡単に思えます。

しかし実際には、資源が回復して魚が多く回遊するようになると、現場では別の難しさが生まれます。

  • 定置網に予想以上のクロマグロが入る。
  • 漁獲枠に早く達してしまう。
  • 他の魚を狙う漁まで制限を受ける。
  • 地域や漁法によって、不公平感が生まれる。

つまり、資源回復は喜ばしいことですが、それだけで問題が解決するわけではありません。

笹川平和財団の解説でも、太平洋クロマグロの増枠は、漁業関係者が厳格な数量管理に取り組んできた努力の結果として実現したものだと説明されています。同時に、WCPFCでは電子モニタリングなど、漁業管理の高度化も議論されています。

これからのマグロ漁業では、資源量だけでなく、データ、監視、漁獲配分、現場技術まで含めた管理が求められます。

遊漁にも広がるクロマグロ管理

クロマグロ管理は、商業漁業だけの話ではありません。

近年は、遊漁、つまり釣り人によるクロマグロ採捕についても規制が強化されています。水産庁は、令和8年4月からクロマグロ遊漁の届出制を導入し、令和8年6月には大型魚の採捕を一定期間禁止するなど、採捕数量の急激な積み上がりを避けるための管理を行っています。

これは、クロマグロがそれだけ価値の高い魚であり、商業漁業・遊漁を含めて資源を管理する必要があることを示しています。

マグロは「獲れる人だけが獲ればよい魚」ではなくなっています。
これからは、海に関わる多くの人が、同じ資源をどう分け合い、どう未来に残すかを考える時代です。

マグロを食べ続けるために必要なこと

では、私たちはこれからもマグロを食べ続けられるのでしょうか。

答えは、単純な「はい」でも「いいえ」でもありません。

資源管理がうまく機能し、漁業者がルールを守り、技術が進み、消費者が海の背景に関心を持つことができれば、マグロを未来へつなぐことは可能です。

一方で、需要だけが先行し、資源や現場への負担を無視すれば、再び資源が減少するリスクもあります。

大切なのは、マグロを「高い魚」「安い魚」として見るだけでなく、
その一尾がどのような海から来て、どのような漁師の判断で獲られ、どのような管理のもとで食卓に届いているのかを知ることです。

小さな釣り針も、マグロ漁業の未来を支えている

マグロ漁業を支えているのは、大きな漁船や市場だけではありません。
海の上では、一本の釣り針、一本の糸、ひとつの仕掛けが、漁の成否を左右します。

資源を大切に使う時代には、ただ多く獲ることだけが価値ではありません。
限られた漁獲機会の中で、確実に、無駄なく、魚の価値を損なわずに獲ることが重要になります。

創業150年の土佐啓作釣は、長い歴史の中で、漁師の現場とともに釣り針を作り続けてきました。

マグロ資源の回復、漁獲枠、世界需要、環境問題。
マグロ漁業を取り巻く状況は、これからも変わり続けます。

しかし、どれだけ時代が変わっても、海の上で魚と向き合う漁師の仕事を支える道具の大切さは変わりません。

マグロをこれからも食べ続けるために。
そして、漁業をこれからも続けていくために。

資源を守る仕組みと、現場を支える技術。
その両方が、これからのマグロ漁業には必要なのです。

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