海の恵みを守る!ミナミマグロ漁獲制限の今と未来
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ミナミマグロってどんな魚?知られざる生態と世界の現状
ホンマグロ(クロマグロ)は知っていてもミナミマグロは知らない方が居るのではないでしょうか?
南半球の冷たい海に暮らすミナミマグロは、その名の通り南緯50度から30度付近の広い海域に生息しています。インドネシアとオーストラリアに囲まれたインド洋東部が、彼らの産卵場と考えられています。生まれたばかりの稚魚は南オーストラリア沿岸で数年を過ごし、成長とともに大海原へと旅立ちます。8歳頃から成熟し始め、15歳から25歳が主な産卵期です。中には45歳まで生きる個体もいるほど、大変長寿な魚です。
ミナミマグロの身質はきめ細かく、特に脂の乗った「トロ」が豊富で、市場ではクロマグロに次ぐ高級魚として扱われています。日本では「インドマグロ」とも呼ばれ、漁獲されたミナミマグロの多くが、刺身や寿司として日本国内で消費されています。
かつて、ミナミマグロの漁獲量は1960年頃に8万トンを超え、その大半を日本が占めていました。しかし、無秩序な乱獲により1990年代には1万トン前後まで激減し、絶滅の危機に瀕しました。この危機は国際問題に発展し、1999年にはオーストラリアとニュージーランドが日本を国際海洋法裁判に提訴する事態となりました。
しかし、国際社会の協力と管理努力の結果、近年は資源が回復傾向にあります。漁獲量も約1万5千トンまで回復し、日本の漁獲量はオーストラリアに次いで世界で2番目に多く、全体の約36%を占めています。
過去の危機を乗り越え、国際的な資源管理の歩み
1960年代に8万トンを超えたミナミマグロの漁獲量は、乱獲により1990年代にはわずか1万トン前後まで激減しました。WWFとトラフィックは、当時の漁獲量削減措置を「手遅れ」と警告するほど、状況は深刻でした。
この危機を受け、ミナミマグロの資源管理を目的とした「みなみまぐろ保存委員会 CCSBT」が設立されました。CCSBTは、全世界の総漁獲可能量(TAC)を設定するための指針として「管理方式(MP)」を導入しました。この厳格な管理により、「2035年までに親魚資源量を漁業開始前の水準の20%まで回復させる」という暫定目標はほぼ達成されました。現在は「2035年までに親魚資源量を漁業開始前の水準の30%まで回復させる」という、より高い目標を目指し、厳格な管理が続けられています。
ミナミマグロ総漁獲可能量(TAC)と日本の割当量の推移
下の表は、ミナミマグロの総漁獲可能量(TAC)と日本の割当量が、国際的な管理努力により着実に増加していることを示しています。
| 漁獲年/期間 | 総漁獲可能量(TAC) (トン) | 日本の割当量 (トン) |
| 2013年 | 10,949 | 2,703 |
| 2014年 | 12,449 | 3,403 |
| 2015年 | 14,647 | 4,847 |
| 2016-2017年 | 14,647 | 4,737 |
| 2018-2020年 | 17,647 | 6,117*1 |
| 2021-2023年 | 17,647 | 6,197.4*2 |
| 2024-2026年 | 20,647 | 7,247.0*4 |
*1 日本の配分量からインドネシアに各年21トン、南アフリカに各年27トンを自主的に移譲した数値が反映されています 。
*2 日本及び豪州の配分量の自主的移譲数値並びにインドネシアに対する特別臨時割当(各年80トン)を反映しています 。
*4 日本の配分量の自主的移譲数値及びインドネシアに対する特別臨時割当(各年130トン)を反映しています 。
(出典:水産庁プレスリリース、CCSBTウェブサイトより作成 )
日本は過去に、国際的に定められた年間割当量6,065トンの2倍にあたる違法操業を行っていたと認定されたことがあります。その結果、2007年から5年間、日本の年間漁獲割当量は半減の3,000トンとされ、総漁獲量減少の9割が日本の削減で占められました。この厳しい経験は、日本の資源管理への意識を変える転機となりました。水産庁は2000年漁期に、自主的な定港水揚げ全量検査や違法採捕ミナミマグロの所持販売禁止など、新たな管理制度を導入しました。台湾も同様に、国際的な資源保護の動きの中でマグロ延縄漁船の減船を決定するなど、各国が資源管理の重要性を認識し、行動を改めました。
CCSBTは、資源管理の実効性を高めるため、包括的な監視・管理・取締り(MCS)体制を構築しています 。漁船監視システム(VMS)の導入により、漁船の位置情報がリアルタイムで把握され、違法操業の抑止に貢献しています 。また、漁獲証明制度(CDS)により、漁獲から市場までの合法的な流通が追跡・確認され、違法漁獲物の市場流入を未然に防いでいます 。洋上・港内転載の監視計画も強化され、寄港国措置として外国漁船の港内検査も義務化されています 。さらに、IUU(違法・無報告・無規制)漁業活動に関与が推測される船舶のリストが共有され、市場モニタリングも実施されています 。これらのの行動は、過去の課題から学び、抜け穴をなくすための洗練された取り組みです。
クロやミナミだけじゃない!それぞれの資源と規制
世界のマグロ資源は、種や生息海域によって状況が大きく異なります。ミナミマグロと同様に、各地域漁業管理機関(RFMOs)がそれぞれの資源状況に応じた管理措置を講じています 。
主要なマグロ種の資源状況と管理機関
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ミナミマグロ(インドマグロ):
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資源状況: 低位だが回復傾向 。
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主な管理機関: CCSBT(みなみまぐろ保存委員会)。
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特徴: かつて乱獲で激減しましたが、厳格な国際管理により資源は回復途上です。漁獲枠(TAC)が設定され、回復目標達成に向けて管理されています 。
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クロマグロ(本マグロ):
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資源状況: 回復傾向(太平洋)。
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主な管理機関: WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)、IATTC(全米熱帯まぐろ類委員会)、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)。
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特徴: 「マグロの王様」と呼ばれます。太平洋では資源回復が順調で漁獲枠が増加しました 。大西洋でも管理が強化されていますが、依然として重要な管理対象です 。
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メバチ:
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資源状況: 低位(特に大西洋、東部太平洋)。
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主な管理機関: WCPFC、IOTC(インド洋まぐろ類委員会)、IATTC、ICCAT。
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特徴: 目が大きいのが特徴で、刺身用として人気です。一部海域では資源の減少が懸念されており、管理強化が議論されています。
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キハダ:
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資源状況: 中間~良好。
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主な管理機関: WCPFC、IOTC、IATTC。
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特徴: 熱帯域に広く分布し、身がさっぱりしており、缶詰や刺身で利用されます。資源状態は比較的安定していますが、漁獲圧の監視が必要です。
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ビンナガ:
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資源状況: 中間~良好(北太平洋は乱獲状態ではない) 。
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主な管理機関: WCPFC、IOTC、IATTC、ICCAT 。
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特徴: 胸びれが長い。「ビントロ」として知られます。資源は比較的良好と評価されていますが、持続的な管理が続けられています 。
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これらの異なる資源状況とそれに対する規制の多様性は、「マグロ」という単一の資源ではなく、それぞれの種が持つ生態的特性や漁業の歴史、そして地域ごとの経済的・政治的状況によって、管理戦略が個別に調整される必要があることを示しています。
持続可能な漁業への挑戦

マグロ漁には様々な漁法があり、それぞれが漁獲効率や魚体への影響、そして生態系への負荷において異なる特性を持っています。持続可能な漁業を考える上で、これらの漁法の特性と環境への影響を理解することは不可欠です。
延縄(はえなわ)漁業:高付加価値と混獲
延縄漁業は、日本では江戸時代に始まり、世界へと広まった伝統的な漁法です。この漁法は、比較的狙った魚だけを釣り上げることができ、魚体を大きく傷付けずに捕獲できるメリットがあります。そのため高鮮度で付加価値の高い魚を提供できます。
しかし、目的外の種、いわゆる「混獲」が生態系に大きな負担をかけているという課題があります。海鳥、ウミガメ、サメなどの海洋生物が釣り針にかかってしまう問題が深刻です。海鳥の混獲は、世界的に高い緯度の海域で特に問題視されています。
CCSBTは、この混獲問題の緩和のために、義務的措置と自主的措置を積極的に講じています 。海鳥の偶発的な捕獲を削減するためのトリポール(鳥が針に近づくのを防ぐ装置)の使用促進や、漁獲時の残滓投棄の抑制、漁業者向けの普及啓発用パンフレットの配布などが行われています 。
巻網漁業:高効率の漁獲量と資源への高負荷
巻網漁業は、マグロの群れを網で一網打尽にする漁法です。効率が良く、一度に大量の魚を獲ることができる大きなメリットがあります 。
しかし、この漁法には深刻な課題も存在します。マグロの群れ全体を網に巻き込むため、魚体が網の中で暴れ、擦れや打ち身が多く、魚体に傷が付いてしまいます。そのため、巻網で捕れたマグロは付加価値が低い傾向があります 。さらに目的のマグロだけでなく産卵を経験していない幼魚までも巻き込んで水揚げされてしまう「幼魚混獲問題」が懸念されています 。そのため、資源への負荷は最も高いと思われます。ウミガメやイルカなどの他の海洋生物が意図せず混獲されることも、生態系への深刻な問題です。
WCPFCでは、巻網漁業における集魚装置(FAD)の使用数制限や禁漁期間の設定など、幼魚の死亡率を減らすための具体的な管理措置が議論され、導入されています 。
一本釣り漁業:資源への低負荷と熟練の技術
一本釣り漁業は、マグロ漁の中でも特に資源への負荷が最も低いとされる漁法です。混獲数が少なく、水産資源の持続可能性を保つ上で非常に優れた選択肢です。魚体を大きく傷つけずに捕獲できるため、高鮮度で付加価値が高い魚を提供できます。また、海底に生息する魚は獲ることができないものの、仕掛けや海層を自由に変えることで、深い場所や潮流の速い海域にも対応可能です。
一方で、他の漁法と比べて漁獲量が少ないことや、熟練の技術を要するため、技術を継承するための後継者不足といった課題も抱えています。しかし、その環境への配慮と魚体品質の高さから、持続可能な漁業の象徴として、その価値が再認識されています。
生態系存続への配慮と混獲防止措置
持続可能な漁業を実現するためには、単に獲ってよい魚の量、大きさ、時期を決めるだけでなく、獲る目的のない生物まで獲らないようにする「混獲の回避」や、漁獲の際に海の生物が住む生息環境を破壊しないようにすることが極めて重要です。マグロ漁獲量の変動は、単に数値にとどまらず、広範囲にわたる生態系への負荷を引き起こす可能性があります。
国際機関は、これらの生態系への配慮を具体化するため、義務的・自主的な混獲緩和策を推進しており、その取り組みは常に進化しています 。例えば、沖縄県では旧暦の3月~4月の間、全ての水産動植物の採捕が禁止されるなど、地域ごとの独自の保護措置も実施されています 。
漁師と釣り人の役割・約束:未来へ繋ぐ海の恵み
マグロ資源の保護は、大規模な商業漁業だけでなく、レジャーフィッシングに至るまで、あらゆる漁業形態に適用される広範な取り組みとなっています。これは、海の資源を守る責任が社会全体で共有されるべきであるという認識が深まっていることを示しています。
商業漁業における厳格な管理と漁師の視点
大型商業漁船に対する漁獲制限は、国際機関によって非常に厳格に管理されています。漁獲枠(TAC)、サイズ制限、禁漁期間が設けられ、漁船監視システム(VMS)による位置情報報告や漁獲証明制度(CDS)を通じて、その遵守が徹底されています 。
日本の水産庁は、特にクロマグロ漁に関して2018年から罰則付き規制案を実施しています。30キロ未満の未成魚の漁獲制限量を超過した場合、翌漁期の割当量が減らされるという厳しいペナルティが科されます 。さらに、漁獲量をリアルタイムでモニタリングし、「注意報」「警報」「操業自粛」を出すことで、上限に達する前に漁業者に警告し、自主的な操業調整を促すシステムが運用されています 。
これらの漁獲制限は、漁師の生活に直接的な影響を及ぼします。漁獲量の変動は地域経済に大きな影響を与え、多くの漁業地域ではマグロ漁が主な生活手段であるため、生業の維持という課題に直面しています 。日本の漁業の歴史を振り返ると、大正時代から漁業技術の進化が漁獲圧を歴史的に高めてきた背景があります 。このような技術革新が資源への影響を増大させてきた経緯は、現代の資源管理が技術の進歩と並行して適応していく必要性を示しています。
また、国内の漁獲量配分においては、大規模巻網漁業と小規模沿岸漁業の間で不公平感が問題となっており、沿岸漁民からは納得できないとの声も上がっています 。これは、科学的な資源管理目標と、漁業者の生業や地域社会の経済的公平性という社会経済的な側面との間で、常に複雑なバランスを取る必要があることを示しています。
遊漁(レジャーフィッシング)における規制と報告義務
漁獲制限は、大型商業漁船だけでなく、遊漁(レジャーフィッシング)にも適用されるようになりました 。特にクロマグロ遊漁では、小型魚(30kg未満のシビ、ヨコワ、メジ等を含む)の採捕は禁止されており、釣れてしまった場合は直ちにリリースする義務があります。大型魚(30kg以上)のキープは一人一尾までと制限され、一尾釣れた後に別のクロマグロが釣れてしまった場合は、後から釣れたクロマグロを直ちにリリースするルールが設けられています。
採捕量が期間ごとに設定された上限(例:2022年6月は10トン)を超える恐れがある場合、その期間中はキャッチ&リリースを含む全てのクロマグロ釣り行為が禁止されることがあります。2025年6月には、月初に釣果が一気に集中したため、例年よりも9日早い5日から採捕禁止措置が発動されるという厳しい事例もありました 。遊漁者は、キープしたクロマグロについて、重量、海域、遊漁船名などの情報を1日以内に報告する義務があり、スマートフォンアプリでの報告も可能です。採捕禁止期間中に違反した場合、漁業法第191条に基づき、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。これにより、遊漁者もまた、資源管理の重要な担い手であることが明確にされています。
資源保護と漁業者の生業のバランス
漁獲制限は、マグロ資源の枯渇を防ぎ、将来にわたって海の恵みを享受するために不可欠な措置です。しかし同時に、これらの規制が漁業者の生活や地域経済に与える影響も大きく、持続可能な漁業方法の採用と、漁業者への適切な支援や配慮を伴う管理が求められています 。資源保護と漁業者の生業のバランスは、国際社会および国内で常に議論されるべき重要な課題であり、その解決には科学的知見と社会経済的公平性の両面からのアプローチが不可欠です。
未来へ繋ぐ漁業のために
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これからも漁業の現場の声に耳を傾け、技術革新を通じて、より環境に優しく、持続可能な漁業に貢献できる釣り針の開発・提供に努めてまいります。海の恵みを未来の世代へと繋ぐために、漁師の皆様と共に、私たちはこれからも挑戦を続けてまいります。



