クロマグロ漁獲枠は本当に公平なのか?巻き網・沿岸漁業・遊漁船が抱えるそれぞれの事情
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クロマグロの資源が回復している。
それなのに、漁師は自由に獲れない。
遊漁船も、マグロを狙って船を出しにくくなっている。
一方で、大中型まき網漁業には大きな漁獲枠が配分されている。
近年、クロマグロをめぐって、こうした声を耳にする機会が増えています。
「資源保護のために漁獲枠が必要なのはわかる」
「でも、その枠の分け方は本当に公平なのか」
これは、漁業関係者だけの問題ではありません。
私たちがこれからもマグロを食べ続けられるか、地域の漁業が続いていくか、そして遊漁船や釣り文化がどう守られるかにも関わる問題です。
今回は、クロマグロの漁獲枠をめぐる不公平感について、巻き網、沿岸漁業、遊漁船、それぞれの立場から考えていきます。
クロマグロの資源は回復してきた
まず前提として、太平洋クロマグロは長年、厳しい資源管理の対象となってきました。かつては乱獲による資源減少が問題となり、国際的な枠組みの中で漁獲量が制限されてきました。
その後、管理の成果によって資源回復が進み、近年は大型魚の漁獲枠拡大も議論されるようになっています。
つまり、いま起きている問題は、単純に「クロマグロがいないから獲れない」という話ではありません。
むしろ、魚は増えてきた。けれど、獲ってよい量の配分や管理の仕組みが、現場の実態に追いついていない。
ここに、現在のクロマグロ問題の難しさがあります。
なぜ「不公平」に見えるのか
クロマグロの漁獲枠は、漁業の種類ごとに配分されています。
大きく見ると、大臣管理漁業、都道府県が管理する沿岸漁業、そして遊漁による採捕管理があります。
この中で、よく議論になるのが大中型まき網漁業への配分です。
大中型まき網漁業は、一度に大量の魚を獲ることができる漁法です。
そのため、他の漁業と比べて大きな漁獲枠が設定されているように見えやすく、沿岸漁業者や遊漁船関係者からは不公平感が出やすい状況があります。
この数字だけを見ると、「なぜ巻き網にこれほど大きな枠があるのか」と感じる人もいるでしょう。
ただし、配分には過去の漁獲実績や国際的な基準、管理開始時点での調整、国の留保への拠出など、複雑な経緯があります。
つまり、単純に「巻き網だけが優遇されている」と言い切るのは正確ではありません。
しかし、現場の実感として、一部の漁業には大きな枠があり、別の漁業や遊漁船には非常に小さな枠しかないように見えることも事実です。
この「制度上の説明」と「現場の納得感」のズレが、不公平感を生んでいます。
巻き網はなぜ批判されやすいのか
大中型まき網漁業は、一度に大量の魚を獲ることができる漁法です。
そのため、資源管理の議論ではどうしても注目されやすくなります。
一方で、巻き網漁業にも言い分があります。
過去の漁獲実績をもとに配分されてきた枠があり、さらに小型魚枠から大型魚枠への振替や、国の留保への拠出、都道府県への融通なども行われてきました。
それでも批判が起きるのは、巻き網が「一気に獲る漁業」だからです。
沿岸の漁師や遊漁船から見ると、目の前に魚がいても枠が小さいために獲れない。
その一方で、大型の巻き網船には大きな枠がある。
この構図が、強い不公平感につながります。
特にクロマグロは高級魚です。
一本の魚の価値が大きいからこそ、枠の配分は生活や経営に直結します。
遊漁船の枠が小さいという問題
近年、特に大きな話題になっているのが、遊漁によるクロマグロ採捕の規制です。
クロマグロを狙う遊漁については、採捕量の管理や届出制、期間ごとの採捕制限などが設けられています。対象は、クロマグロを釣ろうとする遊漁者だけでなく、釣り人を漁場に案内する遊漁船業者、プレジャーボート等の運航者にも及びます。
この管理は、資源保護の観点からは必要です。
しかし、遊漁船業者にとっては大きな経営リスクになります。
クロマグロ狙いの釣りは、船を出す側にとっても、乗る側にとっても大きな魅力があります。遠征、燃料、準備、道具、予約、ガイドの技術。そうしたすべてがあって成り立つ釣りです。
ところが、枠が小さく、短期間で採捕禁止になる可能性があると、遊漁船は予定を組みにくくなります。
釣り人も予約をしづらくなります。
船を出しても、クロマグロが掛かった場合の扱いに慎重にならざるを得ません。
つまり、遊漁船の問題は「趣味の釣りをもっと自由にしたい」というだけではありません。
地域の観光、釣具、宿泊、飲食、船の燃料、ガイド業まで含めた経済圏の問題でもあります。
「獲れても捨てる」という現場の苦しさ
今回のテーマで特に印象的なのが、「クロマグロが獲れても、漁獲枠の関係で捨てて帰る」という話です。
クロマグロの資源が回復し、地域によっては実際に魚が多く見られるようになってきました。
しかし、漁獲枠が限られているため、獲れた魚をすべて水揚げできるとは限りません。
ここで重要なのは、漁師が好きで魚を捨てているわけではないということです。
クロマグロは高級魚です。
本来なら水揚げすれば価値になります。
しかし、枠を超えてしまえば水揚げできない。
放流しても生き残るとは限らない。
船上で処理して海に戻さざるを得ない場合もある。
これは資源管理のための制度が、現場では「魚を無駄にしているように見える」状況を生むという、非常に難しい問題です。
資源を守るためのルールが、結果として漁師の精神的・経済的な負担になっている。
ここに、漁獲枠問題の大きな矛盾があります。
沿岸漁業にも重い負担がある
沿岸漁業、とくに定置網や小規模漁業では、クロマグロだけを狙っているわけではありません。
定置網には、ブリ、サバ、アジ、ヒラメ、シイラなど、さまざまな魚が入ります。
その中にクロマグロが混じることがあります。
クロマグロの枠が上限に近づくと、他の魚を獲りたいのに操業自体を控えなければならないこともあります。
この問題は、前回の記事で触れた「クロマグロが増えているのに、他の魚が獲れなくなる」という話にもつながります。
資源管理は必要です。
しかし、漁法によってはクロマグロを完全に避けることが難しい。
その場合、枠の少なさはクロマグロだけでなく、地域の漁全体に影響します。
配分は「過去の実績」で決めてよいのか
漁獲枠配分の難しさは、何を基準に公平とするかです。
過去に多く獲っていた漁業に多く配分するのか。
地域の生活を支える沿岸漁業を優先するのか。
混獲回避が難しい漁法に配慮するのか。
遊漁船や地域観光への影響も考慮するのか。
資源評価に必要なデータを集める漁業にも枠を持たせるのか。
公平とは、単に「同じ量を配る」ことではありません。
漁法、地域、経営規模、混獲リスク、資源への影響、地域経済への波及効果。
それらを踏まえて、納得できる配分に近づけていく必要があります。
遊漁をどう位置づけるか
これから重要になるのが、遊漁の位置づけです。
これまでクロマグロ管理は、主に商業漁業を中心に議論されてきました。
しかし、現在は遊漁による採捕も無視できない存在になっています。
これは、資源管理としては当然の流れです。
一方で、遊漁船業者から見れば、商業漁業に比べて枠が小さく、経営の見通しが立ちにくいという不満が出やすくなります。
クロマグロ釣りは、単なるレジャーではありません。
地域によっては、遊漁船、宿泊、飲食、釣具店、港周辺の経済に関わる観光資源でもあります。
今後は、遊漁を「漁業ではないから後回し」とするのではなく、
地域経済を支える海の利用者の一つとして、どのように管理に組み込むかが問われます。
問題は「誰が悪いか」ではない
漁獲枠の話になると、巻き網が悪い、沿岸がかわいそう、遊漁が不遇だ、という対立構造になりがちです。
しかし、本質はそこではありません。
巻き網には巻き網の経営と歴史があります。
沿岸漁業には、地域の暮らしと混獲の難しさがあります。
遊漁船には、釣り文化と地域観光を支える役割があります。
行政には、国際的な資源管理の責任があります。
問題は、クロマグロ資源が回復してきた今、
古い配分の考え方のままで、現場の変化に対応しきれるのか
という点です。
魚が少ない時代には、とにかく獲る量を抑えることが最優先でした。
しかし、魚が戻ってきた時代には、次の課題が生まれます。
戻ってきた資源を、誰が、どのように、どれだけ利用するのか。
そして、その利益と負担をどう分け合うのか。
これから必要なのは、現場が納得できる管理
クロマグロを未来に残すために、漁獲枠は必要です。
これは大前提です。
しかし、必要な制度であっても、現場が納得できなければ長続きしません。
獲れる魚を捨てなければならない。
他の魚まで獲れなくなる。
船を出す予定が立てられない。
大きな枠を持つ漁業と、小さな枠で苦しむ漁業がある。
こうした声を無視したままでは、資源管理への信頼そのものが揺らぎます。
これからのクロマグロ管理に必要なのは、単なる増枠ではありません。
必要なのは、
漁法ごとの実態に合った配分、
混獲リスクへの配慮、
遊漁船を含めた地域経済への目配り、
枠の融通をより早く行える仕組み、
そして、なぜその配分になるのかを現場に説明する透明性です。
マグロを守ることと、漁業を守ることは同じ方向にある
クロマグロの漁獲枠をめぐる問題は、単に「もっと獲らせてほしい」という話ではありません。
資源を守りたい。
でも、漁師の暮らしも守りたい。
遊漁船の経営も守りたい。
魚を無駄にしたくない。
地域の海の文化も続けたい。
この複雑な思いが、漁獲枠の不公平感として表れています。
マグロを未来に残すことと、漁業を未来に残すことは、本来対立するものではありません。
資源を守るためのルールが、現場の努力を正しく評価し、地域の生業を支え、魚の価値を無駄にしない仕組みになってこそ、持続可能な漁業に近づいていきます。
土佐啓作釣は、創業以来、漁師の現場とともに釣り針を作り続けてきました。
海の上では、制度だけではなく、道具、技術、経験、判断が漁を支えています。
クロマグロ資源が回復してきた今だからこそ、次に問われるのは、
戻ってきた魚をどう公平に、どう無駄なく、どう未来へつなぐかです。
漁獲枠の問題は、マグロの未来を考えるうえで避けて通れないテーマなのです。



